コラム
皆さんは、歯医者へ行ったことのある人がほとんどかもしれませんが、馬が歯医者に診てもらっているところを見たことがある人は少ないのではないでしょうか。
そして、馬の口の中に関しては、日ごろ馬の世話をしている人でさえしっかりと見たことがある人はほとんどいないでしょう。馬の歯は臼歯が奥の方まで生えていて、加えて馬の口を大人しくしっかり開けさせることは難しいため、なかなか見ることができないと思います。
そのため、馬の歯科治療とは、口をしっかり開けておくための開口器や奥歯まで照らすためのライト、時にはデンタルミラーなどの道具を用いて、十分に口の中を診ながら、そして人馬ともに安全に行っていく治療なのです。
これから皆さんに奥深い馬の歯の仕組みについて知ってもらうために様々なテーマについてお伝えしていくことで、私たちが馬の口腔内の状態をどのように考え、どのように処置しているかを知ってもらいたいと思います。教科書や論文を元に、正確な情報を発信できるように心がけていきたいと思います。
まず、馬の歯の特徴について説明していきます。
最大の特徴の1つは、歯が伸び続けることです。
馬の歯は年間2-3㎜ 程度伸びます¹ ²。
馬は歯が生えて(萌出:ほうしゅつeruption)からもエナメル質の形成が長い間継続し、その後本来の歯根が形成することで長い歯冠を持った長冠歯(ちょうかんしHypsodont)になります³。
EDCにて
馬の歯は、7歳を過ぎるころ歯根が閉じるまで成長し続け、およそ75㎜の長さになります。その長くなった臼歯を30-35年と言う歳月をかけ、食事のたびに少しずつすり減らしては⁴、臼歯を伸ばすということを繰り返していきます(挺出:ていしゅつextrusion)。
余談ですが、人の歯も摩耗や対合歯の喪失などにより、歯が歯槽骨から出てくる挺出が起きて、歯が伸びてくるような現象が起きることがあるそうです⁵。
人の歯の表面がエナメル質で覆われているのに対し、ウマの歯の咬合面はセメント質、エナメル質、象牙質の3つで構成されており、草をすり潰すのに適した構造をしています。
食事の際、上下の歯を擦り合わせる咀嚼により、伸びた分はある程度バランスが整えられます。しかし、上下の臼歯の大きさや左右臼歯間の幅が違うため、特に舎飼いで決まった時間にのみ餌を与えられる馬たちは歯のバランスが徐々に崩れていってしまうのです。
上顎臼歯
下顎臼歯
※臼歯の大きさは上が下より30%大きく⁶、左右間の幅は上が23-30%広い⁷
その為、それぞれの臼歯がよく当たるところとあまり当たらないところの差が出来、上顎臼歯の外側と下顎臼歯の内側の一部が尖ってきます(エナメルポイント形成)。
この鋭く尖ったエナメルポイントが粘膜や舌を傷つけ持続的な口内炎の原因になるのです。
傷ついた口腔粘膜⁸
歯が尖る模式図
引用:Equine Dental Clinic CPD key1,p33
通常のデンタルケアの1つとして、このエナメルポイントの除去があります。
次回はデンタルケアを怠ることによる弊害を紹介します。
参照文献:
¹:Baker GJ et al.,1985,pp217-228
²:Dyce KM et al.,1987,pp473-477
³:佐原 紀行 ゾウの歯とウマの歯 松本歯科大学
⁴:Equine Dental Clinic CPD key1,p13
⁵:歯チャンネル88
⁶:Equine Dental Clinic CPD key1,p13
⁷:Equine dentistry third edition p79
⁸:Equine Dental Clinic CPD key1,p33
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