コラム
水漬け乾草の利点としては、次の2点です。
・埃が舞わないので咳が緩和される
・水溶性の炭水化物が溶け出すので、余分な糖質を取り除くことができる
そのため、呼吸器疾患や肥満、蹄葉炎などの代謝疾患に対して、水漬け乾草が有用との報告が多くあります。したがって、以下の馬には水漬け乾草で給餌するのが好ましいと考えられます。
・咳をよくする馬
・輸送中の馬
・太っているポニー
・蹄葉炎の馬
さて、馬に圧縮された乾草が給与されるとき、多くの馬は往々にしてそれをかじって振り回し、周囲をほこりっぽくします1。乾草の短所のひとつは、乾燥しているためほこりっぽく、保存状態によってはカビっぽくなっていることです。
また時には炭水化物やミネラルが過剰に含まれるために馬の健康を害することがあります。そのため今、馬のコンディションを管理する方法として、乾草の水漬け給餌が推奨されています。しかし、その方法にはいくつか注意点があり、なぜならタンパク質やミネラルのような他の重要な栄養素が乾草から偶発的に浸出してしまうからです。
乾草には、主に2つのタイプがあり、それはマメ科植物とイネ科植物です。両方とも水分、食物繊維、タンパク質、炭水化物、ミネラルを含みます。マメ科乾草(アルファルファとクローバー)は、イネ科乾草(チモシー、オーチャード、オーツ、フェスク、バーミューダ)よりタンパク質やカロリーを多く含み、またしばしばカルシウムが高く、カルシウムを多く含む飼料は若い成長途上の馬には有害であるともいわれています2。
乾草中には、2つの炭水化物の種類が存在します。1つは細胞壁を作っているような、構造性炭水化物(structural carbohydrates)と呼ばれます。これらは、馬の消化酵素に抵抗性であり、腸内のバクテリアで分解しなければなりません。2つ目の炭水化物の種類は、非構造性炭水化物(nonstructural carbohydrates, NSCs)で、グルコース、ショ糖、フルクトースといった単糖や、フラクタンと呼ばれる複合物です。
フラクタンは、フルクトース分子の連なりであり、チモシーやアルファルファなどの乾草にも含まれ、寒冷期のイネ科乾草に最も多く存在します3。馬によっては有害となる乾草のNSCsの一部です。しかし、それらは水溶性であり、水漬けする間に取り除くことができるのです。
乾草を水漬けすることで、呼吸の状態や様々な代謝病、肥満の改善に役立ちます。
喘息様/炎症性呼吸器疾患/慢性閉塞性肺疾患/再発性気道閉塞
再発性気道閉塞は成馬の約15%に悪影響を及ぼし、呼吸を弱らせる病態といわれています。ある研究では、30分の乾草水漬けが粉塵の粒子数を88%減少させることが報告されました4。さらに最近、馬の気道内の吸気可能なほこりの濃度を測る研究が行われ、それらのほこりには微小な下部気道まで吸入され炎症を起こしうる粒子を含まれていることがわかったそうです。その研究から次のことが分かりました。
インスリン抵抗性(IR)/馬代謝疾患(EMS),蹄葉炎
インスリン抵抗性の馬は、蹄葉炎のリスクが増えています。馬は、炭水化物、特にフラクタンの摂取量の小さな変化に敏感です6。蹄葉炎の進行を抑える1つの方法は、特にインスリン抵抗性/馬代謝疾患の馬において、NSCsの含有量を12%未満へ減らすため、乾草を水漬けすることです7。
肥満
馬の肥満は、主に過給餌や不十分な運動の結果としておきている。肥満は、インスリン抵抗性、EMS、そして蹄葉炎になりえます。ある研究者らは、6週間、馬体重の1.5%の給餌量(標準2-2.5%)へ制限することで、馬体重を6.8%減らし、同様にBCSと腹囲を改善することができたと報告しました。同時にその研究では、乾草を給餌前に8-16時間、40Lの冷水へ入れた後、ヘイネットへ入れて30分間吊るすことで水抜きしてから、その乾草を馬へ与えました。その水漬け方法では乾草中のNSCsを38%減らす結果となりました8。
高カリウム周期性麻痺(HYPP)
水漬けすることは、NSCsを取り除くだけでなく、ミネラル分も減少させます。この作業はHYPPや筋痙攣、麻痺を引き起こす高カリウム血症につながる遺伝的素因を持つ馬にとって有益です。
カリウム含量1.1%未満である低カリウムの飼料は、麻痺の頻度や重症度を減弱すると考えられます。HYPPを持つ馬のために十分カリウム濃度を減らそうとすると、アルファルファやオーチャードは12時間水漬けをする必要がありましたが、そうするとリンについては馬の必要量を下回るほど流出してしまい、乾草中のカルシウムとリンのバランスが悪くなっていました。このことは特にアルファルファにおいて顕著でした。
多糖類貯蔵筋炎(PSSM)
PSSMは高NSC飼料を与えることで引き起こされる筋疾患です。獣医師や栄養士は、PSSMを持つ馬には常にNSC10%未満の飼料を与えることを推奨しています9。
乾草を水漬けするのには、単にバケツや一輪車のようなものが使えるし、ヘイネットに入れてもそのままでもよいです。あるいは乾草水漬け用の商品を買うことを考えてもよいでしょう。
平均500kgの馬では、オーナーは(馬体重の2.5%を与えるなら)12kgの乾草を1日に水漬けすることになり、結果として144Lの乾草漬けした水ができます。それらは、およそ1kgのNSCとリンを含めたNSC以外の成分を含んでいます。この液体は、環境汚染物質であるため、頻繁に同じ草地へ廃棄しないよう、責任を持って捨てましょう。また池や水路などの閉鎖水域にも捨ててはいけません7。加えて、すべての乾草は画一的に作られるわけではありません。乾草の質やNSCの含量は、乾草のタイプや作り方、作物の成熟具合、日時、作っている間の天候によって様々です7。
NSCとカリウムの値が低めの乾草が使えない、もしくはわからないのであれば、水漬け乾草を与えるのがよく、乾草を15-30分だけ浸漬して与えましょう。
現在、一般的になりつつある考え方ですが、研究によってはデータや意見が異なることがあります。また、馬によっては摂取カロリーが足りなくなったり嗜好性が落ちたりすることがありますので、かかりつけの獣医師とご相談することをお勧めいたします。
参考文献
- Oke S. Understanding feeds for the busy owner. TheHorse.com.
Available at http://www.thehorse.com/ articles/21198/understanding-feeds-for-the-busy-owner.- Anon. Hay quality & nutrition: evaluating your horse’s nutritional needs.
Available at https://aaep.org/horsehealth/hay-quality-and-horse-nutrition-evaluating-your-horses-nutritional-needs- Pagan JD. Carbohydrates in equine nutrition. Kentucky Equine Research.
Available at https://ker.com/published/carbohydrates-in-equine-nutrition/- Moore-Colyer MJ. Effects of soaking hay fodder for horses on dust and mineral content. J Anim Sci 1996;63:337–42.
- Clements JM, Pirie RS. Respirable dust concentrations in equine stables. Part 2: The bene_ ts of soaking hay and optimizing the environment in a neighbouring stable. Res Vet Sci 2007;83:263–268.
- Martinson K, Jung H, Hathaway M, et al. The effect of soaking on carbohydrate removal and dry matter loss in orchardgrass and alfalfa hays. J Eq Vet Sci 2012;32:332–8.
- Longland AC, Barfoot C, Harris PA. Effects of soaking on the water-soluble carbohydrate and crude protein content of hay. Vet Rec 2011;168:618.
- McGown CM, Dugdale AH, Pinchbeck GL, et al. Dietary restriction in combination with a Nutraceutical supplement for the management of equine metabolic syndrome in horses. Vet J In press.
- Martinson CM, Hathaway M, Jung J, et al., The effect of soaking on protein and mineral loss in orchardgrass and alfalfa hay. J Eq Vet Sci 2012;32:776–82.
- Janicki KM. Effects of soaking on protein, mineral loss in hay. TheHorse.com.
Available at http://www.thehorse.com/articles/31220/effects-of-soaking-on-protein-mineral-loss-in-hay
参考Website: “The Horse” FACTSheet Hay Soaking
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